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投資家教育に新技術  シンプレクスの完全仮想市場
2001年5月30日 日経金融新聞(朝刊) 10面掲載記事  PDF
【1. 人工市場】
 近年、株式市場や外国為替市場の研究において、「人工市場」と呼ばれるアプローチが登場、多くの研究者が取り上げている。従来のファイナンスの研究者だけにとどまらず、情報科学や心理学の分野からの研究報告も多く、一定の成果も上がっている。
 ここでいう「人工市場」とは、コンピュータ上に仮想的な市場を構築、多数のコンピュータプログラムがあたかも市場参加者の役割を果たすべく集まって取引を行う。その目的は、人間が参加している現実市場と同じような架空市場を作ることである。その中で、例えば「バブル現象が、個々の市場参加者の行動や意思決定からどのように発生するか」といった問題の解明を目指している。
 
 
【2. 擬似仮想市場と投資家教育の現状】
 一方、ここ数年、様々な団体が実在の銘柄を用いてインターネット上で仮想売買を行うシステムを開発し、株式投資などの未経験者を対象とした擬似仮想市場を「バーチャルトレーディング」などと銘打って展開している。これらのシステムの多くは、数分から数時間遅れの市場価格を用いて売買する。その場合の仮想性はあくまでも、「もし、この値段で、この時点で、この株数を買った(売った)としたら....」といったものにとどまっている。
投資未経験者にとっては「たら、れば」を金銭的負担なしに経験できるツールとしての価値がある。
 しかし、この種のシステムを投資家教育システムと呼ぶには様々な問題がある。第一に、現実の複雑さを教えられない。時間遅れとはいえ、多彩なニュースが絡み合う現実を相手にすることには変わりなく、個々のニュースが株価形成にどんな影響を与えるかという大事な点がわかりにくい。つまり、学習の観点からすれば、現実をいくつかの要因に分解して考えなければならないのに、だれもその場では教えてくれない。
 第二に、現実の市場では様々なノイズが発生する。例えば、ある日ある銘柄が何のニュースもなく突然大きく売られたりするが、理由は単に需給だけだったりする。こうしたノイズとしての株価の変化は学習としてはあまり意味を持たない。だが、現実にはそうした現象が頻繁に起こり、学習者はその都度翻弄(ほんろう)されてしまう。
 
 
【3. 完全仮想市場の重要性】
 こうした問題点は、現実市場を再現した擬似仮想市場である限り解決できない。もし学習効果を最大限に高めるなら、ニュースや市場参加者をも、ある程度コントロールできる仮想市場を構築する方が容易である。初心者は、実際に取引されているソニーやトヨタ自動車といった銘柄ではなく、全く架空の銘柄を設定し売買する方が、先入観を排除でき効果的でもある。
 こうなると、もはやシミュレーションというよりは全く新しい市場を開設するのと同じであり、先の人工市場と似た仮想市場ができる。最大の違いは参加者で、新しい方は実際の人間である。もちろん、“コンピュータトレーダー”が参加しても問題はない。
 そこでは、実際の市場と同じようにニュースが流れ、銘柄の売買が人間やコンピュータによって行われる。ただし、そのニュースや銘柄は架空である。価格はすべて売買のみによって決定(内生的価格形成)される。このため、参加者は売買の際にマーケットインパクトを感じ、価格は参加者全員に平等に与えられた情報によって上下する。従って、ニュースを正しく判断した者は売買益を得、誤った判断を下した者は売買損を被るといった完全仮想市場ができあがる。
 投資家教育ソフトの開発を手掛けるシンプレクス・インスティテュート(東京・千代田)はこの完全仮想市場を構築、これを用いて機関投資家の社内研修を行っている。また、市場の深い理解を求める個人投資家の教育も企画中である。
シンプレクスの仮想市場は、現時点では株式市場のみ完成している。近い将来は株式オプション、為替市場も加え、相互に影響を与え合う市場にする。そこでは一般的なザラバ方式、値付け(マーケットメイク)など様々な取引形態が存在し、注文形態も成行、指値、逆指値なども扱える。価格はすべて内生的(参加者の売買のみ)で決まり、売買の結果はリアルタイムでポジション(持ち高)に反映、損益計算も即時である。
 市場参加者へはミクロ、マクロのニュースが配信される。コンピュータトレーダーの中にはニュースに反応して売買するものが居て、ポジティブなニュースに対して市場は価格の上昇という形で反応する。そこで、ニュースを正しく判断し対処した参加者が、より高い収益率を得ることができるよう工夫している。
 この「正しい判断・対応が収益率を高める」という評価ができないと、学習システムとしての価値はない。これこそが投資家教育の学習効果を検証する際の基本であり、また学習者のインセンティブでもある。
 先日、このシステムを用いてリーマン・ブラザーズ証券の新人研修を実施した。その際、ニュースや銘柄情報を正しく認識し素早く対処した参加者の収益率が、直感に頼ったトレーディングを行った参加者よりも格段に優れているという結果が出た。損切りルールのような戦略を持って臨んだ参加者の収益率が、戦略を持たずに売買した者より高かったことも興味深い。
 
(シンプレクス・インスティテュート社長 伊藤 祐輔)

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