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悪化する相場環境のなか、 いつになったら日本に投資家は育つのだろうか
社団法人日本能率協会 JMAマネジメントレビュー 11月号(58-61頁) 掲載記事(抜粋)
マルチメディア ジャーナリスト 吉村克巳
 
日経平均株価がバブル以降の最安値を更新している。こうした悪い相場環境のなかでこそ、将来有望な銘柄を買う場面があるはずだが、一般投資家の裾野が狭い日本では長期的な株式投資を期待するのは難しい。そのうえ、奇々怪々な新証券税制もさらに投資家を市場から遠ざけようとしている。日本の証券市場はこれからますます縮んでいくのだろうか。
 
 
完全仮想市場で投資の基本を学習
 「日本版401kが加入者に対する投資教育を義務化しているといっても、ガイドラインも何もない。いまのままでは失敗しますよ。企業は就業時間内で強制的に投資教育を行うべきです。そうしなければ“年金難民”が発生しかねません」と、金融関係者の教育事業を行うシンプレクス・インスティテュート(東京都港区)の伊藤祐輔社長は語る。同社はソロモン・ブラザーズ・アジア証券の仲間だったトレーダーのプロ4人が独立して2000年に設立した会社だ。金融専門家の養成だけでなく、金融初心者に対する教育も事業の柱としている。
 伊藤社長たちは自らのトレーダー経験を通じてOJTによる徒弟制度的な現場教育のあり方に疑問を抱き、仮想市場で効果的に投資を学習できるソフト「LIVE」を開発、事業化をねらった。
 「新人5人が配属されても、モノになるのは一人くらい。勉強のためには実際にトレーディングを経験させるしかないのですが、銘柄や、売りと買いを間違えたり、下手をすると何百万円もの損失が出てしまう。有望な新人でも大きなミスをすると自信を失ってダメになることも少なくないんです。そのため、仮想で市場を体験できるシステムがあればいい、とずっと思っていました」と伊藤社長は言う。
 すでに株式取引を仮想体験できるバーチャルソフトはあるが、現実の株価を利用するため「市場を形成する要因が複雑すぎて、教育ツールとしては不向きだ」と伊藤社長は語る。LIVEは参加者による完全な仮想市場であり、実際の市場とはリンクしていない。3つほどの仮想銘柄を巡って参加者が売買を行い、どのようなメカニズムで価格が形成され、売買の内容やタイミングによって投資利益が変化するかを実感できる。コンピュータ相手の売買もあるが、対戦型では参加者が10人もいれば学習としては十分な価格形成が行われるという。
 このソフトの最大の特徴は、常に流れる「架空ニュース」である。世界経済からスポーツまで、参加者のレベルに応じて市場に関係するあらゆる分野のニュースが画面に表示される。たとえば「大手ゼネコンの手貫建設、ナニワバンクに債権放棄要請」というニュースが流れると、参加者はナニワバンクに売りを浴びせかけ株価は急落する。「金融理論とマーケットの整合性を持たせたニュースの組合せづくりがわれわれの最大のノウハウです。これは市場で実際に痛い目に遭った経験がないとできないでしょう。30本のニュースを作るのに3日間はかかりますよ」と伊藤社長。
 伊藤社長によれば「初心者にとっては株価の動きを想像しやすい相場が一番勉強にある。言い換えれば仮説を立てられる相場ということです。結果は間違ってもいいが、どんな場面でも自分で考えてシナリオを組み立て、結果を分析することが大切なんです。先を読めなければ投資をしてはいけない」のだ。
 現在、LIVEは主に証券会社の新人研修で使われているが、大学や個人投資家にも広げていきたいという。アメリカではカリフォルニア大バークレー校で昨年10月に金融工学の修士コースでこのソフトが活用されたが、日本の大学ではまだ例がない。
 「日本の大学ではマーケット関係者が教授になることはまれなので、LIVEを使って教えられる人が少ないのです。大学生も含めてこのソフトは個人投資家にこそ必要です。プロは現場で学べるが、個人にはそういう機会がないのですから」と語る伊藤社長は近い将来、低価格のeラーニングとしてLIVEを個人投資家にも提供したいと考えている。相場の悪い現在こそ、投資家にこうした教育プログラムが必要なのではないか。

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